IIJ.news Vol.191 December 2025
一元的なデータ活用プラットフォーム実現のため複数システムと顧客属性情報データベースを自動連携
ぴあ株式会社
セールスプロモーション局 Webシステム開発部 部長
兼 次世代システム開発局 共通基盤開発部 部長
黒沢 拓 氏
[導入前の課題]顧客属性などのデータを集約し、複数システムを共通基盤へ
――おもな業務内容と次世代データ活用基盤の概要を教えてください。
黒沢:
当社のインターネット関連のシステムを担当しているのが、WEBシステム開発部です。私は次世代システムの仕組みを考える次世代システム開発局の仕事にも取り組んでいます。
当社のビジネスはチケット販売が主軸で、大規模なシステムを構築・運用しています。その根幹となるチケッティングシステムは、構築から15年以上経っていますが、運用・保守コストが高止まりし、改修しようとしても影響範囲が大きく、手が出しにくい状況でした。喫緊の課題は、システムの開発スピードを上げ、開発・保守コストを下げることでした。さらに、複数のシステムが連携できていなかったため、データ活用も十分ではありませんでした。コロナ禍の影響が少し収まった2022年頃から「システムをリプレースするなら、どのような次世代システムが必要か?」といったことを考え始め、複数のシステムでデータを共通的に扱えるデータ基盤を作ろうと考えました。今後、さらにデータが重要になっていくなか、さまざまなデータを柔軟に扱え、顧客属性情報を簡単に自動連携できる仕組みが必須だと思ったためです。

黒沢拓氏
――共通のデータ基盤を構築する狙いは、どのような点にあるのですか?
黒沢:
最終的には、開発コストと保守コストを下げ、開発スピードを上げることです。そのためには、すでにある多くの仕組みや情報を組み合わせて使えるようにすることが不可欠です。個別のシステムから情報を持ってきていると時間がかかり、データを活用したビジネスのスピードも上がりません。複数のシステムを並列で維持していたら保守コストも下がらないし、開発コストもかかります。
――どのようなステップでシステム連携を考えましたか?
黒沢:
まず、ぴあにとって最重要のチケッティングシステムから、データ基盤にデータを取り込める次世代システムの構築を推進しました。チケッティングシステムは、IIJに運用保守を依頼しています。次に、スマホアプリの「チケットぴあアプリ」のデータ群など、IIJ以外のベンダに運用・保守を依頼しているシステムのデータを連携したいと考えました。以前は、チケッティングシステムで蓄積したデータとチケットぴあアプリのデータは別の場所にあり、運用・保守ベンダも異なることから、連携が容易ではありませんでした。

[選定の決め手]複数システムとの連携に優れ、手厚い支援体制と技術力を評価
――データ基盤の骨格はどのような構成にしましたか?
黒沢:
データ基盤の仕組みをつくるうえで、中核になるデータベースを何にするかについては、複数サービスを検討しました。その結果、SaaS型データプラットフォームの「Snowflake」を採用することにしました。処理速度が速い以外にも、機能面で面白いと感じた点が多くありました。例えば、今はクリティカルな個人情報は取り込んでいませんが、そうした情報も取り扱うようになった時には暗号化して保存できる機能があります。さらに、利用者ごとに権限を設定して閲覧の可否を細かく制御できることもセキュリティ面で魅力的でした。カスタマーセンターからは詳細な情報を見られますが、チケット営業からは匿名情報しか見られないといった具合です。
――Snowflakeとチケッティングシステムなど既存システムとの連携や、新規システムとの連携はどのように考えましたか?
黒沢:
チケッティングシステムの会員情報のうち、個人が特定できない個人関連情報をSnowflakeと連携したいと考えていました。そこでチケッティングシステムの運用・保守を行なっているIIJに良い案がないか相談したところ、多彩なデータをセキュアにつなぐiPaaSとして「IIJクラウドデータプラットフォームサービス」を紹介されました。
――IIJクラウドデータプラットフォームサービスの印象は?
黒沢:
評価点は、データソース側のチケッティングシステムに対し、必要最小限の追加開発で済むことでした。既存の基幹システムに大きな手を入れないで使えることが、データ基盤連携の要件でした。IIJクラウドデータプラットフォームサービスにはローコードツールが用意されていて、インタフェースを個別に開発する必要がないので、少ない負荷でデータ連携を実現できました。
――選定の決め手になったポイントを教えてください。
黒沢:
IIJクラウドデータプラットフォームサービスの提案を受けてからも、類似のサービスを検討しましたが、チケッティングシステム側からもっとも使いやすい製品を選ぶことが私たちの本意だったので、Snowflakeのアダプタを備え、今後の拡張にも対応できる多くのアダプタが用意されているIIJクラウドデータプラットフォームサービスの採用がもっとも自然でした。アダプタ製品の訴求点は接続先の数などになりがちで、優劣がつけにくいものです。そうしたなかIIJは、製品単体の提案ではなく、既存のチケッティングシステムに組み込んで運用した際の状況を想定したうえで、IIJクラウドデータプラットフォームサービスを提案してくれました。個人情報やその他の機密データもセキュアなプライベート接続で連携できる点も今後を考えると安心感がありました。さらに、導入に向けた課題解決もIIJのエンジニアがPoCから支援してくれました。
――運用コストや開発体制について感じたことはありますか?
黒沢:
コスト面では、定額の料金体系を高く評価しています。データを連携すればするほど、単価が下がります。他のベンダは従量課金なので、使うほど高額になりますが、定額のIIJクラウドデータプラットフォームサービスなら、活用が進むにつれてコストが下がるというメリットがあります。開発については、ローコードツールとしての機能を備えているので、扱いやすいと感じています。ぴあでは、開発スピードを高めるためにシステム開発の内製化にも取り組んでいます。さまざまなスキルレベルの人が内製化に関わるようになった時、ローコードツールが機能すれば、現場のニーズに迅速に応えられます。私もエンジニアとして興味があり、IIJから講習を受けて実際に動かしてチャレンジしているところです。
各サービスの連携イメージ

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[導入後の効果]データ利活用の核となるプラットフォームでデータドリブンを加速
――導入スケジュールを教えてください。
黒沢:
最初にIIJと話をしたのは2023年1月で、2月末に導入を決めました。4月からPoCを実施して、データソース側となるチケッティングシステムとの相性などを確認し、本格導入に着手しました。細かい不具合などはありましたが、リリースまで大きな問題はありませんでした。
――データ基盤の活用範囲はどのように拡張していますか?
黒沢:
2023年12月のリリース時点では、チケッティングシステムから個人関連情報として会員情報だけをSnowflakeに連携し、個人を特定できないかたちで、どのような属性の人がどんなアーティストに興味を持っているのかといったデータを分析して、データマーケティングプラットフォーム「PIA DMP」など、広告面での活用を開始しました。その後、2024年7月には購買情報もSnowflakeに連携して、活用の幅を広げています。これからはIIJが運用・保守していないシステムとも連携させて、どんどんSnowflakeにデータを取り込んでいく予定です。
――IIJクラウドデータプラットフォームサービスを利用したデータ基盤構築の効果について、現段階でのお考えを聞かせてください。
黒沢:
データ基盤は次世代システムであり、現時点では即時的かつ直接的な効果は求めていません。効果が顕在化するのは、利活用する仕組みがこれから増えていき、ビジネスに好影響が現れた時だと考えています。もちろん、これまでも一部で利用を進めていますが、安定的に稼働しており、1日最大6万件のデータ連携が可能になり、ビジネスのリアルタイム性も向上しました。IIJには最初のリリース以降も改修をお願いしていますが、当初の狙いであったコスト感・スピード感の改善という面では満足しています。
――共通基盤としての今後の役割について教えてください。
黒沢:
データ基盤を含む共通基盤をいくつか構想していて、それらを有効活用できるビジネスを考えているところです。マーケティングでの活用はもちろん、チケット発売時のアクセス集中の事前予測などにも有効だと考えています。アクセス集中が予測できれば、サーバのスケールアップを事前に自動で行なうことができ、より多くのアクセスを受けられるようになると期待しています。
本社:東京都渋谷区東1-2-20 渋谷ファーストタワー
創業:1972年7月
チケット販売事業を柱に、コンサートやイベントの企画・制作・運営、イベント主催者への各種ソリューションサービスの提供、ぴあアリーナMMをはじめとするホール・劇場の企画・運営など、エンタテインメント全般にわたる各種事業を展開。企業理念である「ひとりひとりが生き生きと。」をモットーに、リーディングカンパニーとして業界をけん引している。
- 導入したサービス・ソリューション
- IIJクラウドデータプラットフォームサービス
本記事は2024年4月に取材した内容をもとに構成しています。記事内のデータや組織名・役職などは取材時のものです。