IIJ.news Vol.191 December 2025
生成AIで新たなビジネス価値を創出。社内業務にも活用し金融DXを推進
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
DX推進本部
副本部長
武重 太郎 氏
主任調査役
大上 記央 氏
江上 優 氏
[導入前の課題]生成AIのビジネス活用に早くから着目
――御社は2022年から2年連続で経済産業省の「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に選定されました。DXに注力する狙いを教えてください。
武重:
当グループは福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行、みんなの銀行からなる地域金融グループです。5行のシナジーを発揮し、地域経済の活性化と発展に尽力しています。昨今は人口減少や少子高齢化、スマートフォンの普及などにより、金融機関を取り巻く環境も大きく変化しています。お客さまの多様なニーズと期待に応えるためには、価値ある金融サービスの提供が必須です。それを加速するためにDXを推進しています。2022年4月、私たちが所属するDX推進本部は、社長直轄の組織として誕生しました。現在、総勢約130人で活動しています。

武重太郎氏
―― DXは内製化を軸に進めているとうかがいました。
武重:
お客さま起点でサービスを提供するには、最新技術にいち早くキャッチアップし、開発スピードと柔軟性も高める必要があります。そのため、内製によるアジャイル開発にシフトしました。2022年度よりスタートした中期経営計画では、非対面取引を拡充させる「個人向けアプリ」と「法人ポータル」、そしてデジタルとデータを活用した「SFA (営業支援システム)」を3大プロジェクトに掲げ、実現に取り組んでいます。このプロジェクトもDX推進本部が中心となって、内製によるアジャイル開発で進めています。
―― ChatGPTなど生成AIの可能性をどのように捉えていましたか?
武重:
銀行業務は稟議書、提案書などさまざまな文書を多数作成します。情報収集やドラフトの作成において、生成AIは有用性が高いと考え、ChatGPTが登場した頃から、業務活用を模索していました。
[選定の決め手]タイムリーかつ実現可能性が高かったIIJの提案
――ChatGPTをベースとしたMicrosoftのクラウドサービス「Azure OpenAI Service」を導入されましたが、導入の決め手を教えてください。
大上:
生成AIのビジネス活用を模索していた2023年4月、IIJから「まず社内で使ってみることが大切」との提案を受けました。IIJの提案は使うことを促すだけでなく、運用の定着、AI活用の社内への浸透、そしてビジネス価値の創出までフェーズを区切って進めていく具体的なものでした。しかも、IIJはAzure OpenAI Serviceを活用した生成AIのセキュアな活用環境を構築する技術力も持っています。ビジネス活用を見据えた段階的なプランと、その実現を支えるソリューションを他社に先駆けて提案してくれたことが決め手になりました。
――生成AIの利用に関して、セキュリティ面の不安はなかったですか?
大上:
すでにMicrosoft 365を導入しており、その際、IIJにセキュリティ対策もしっかりサポートしてもらいました。IIJはMicrosoftのソリューションパートナー認定を取得し、緊密なパートナーシップを構築しています。金融機関として対処すべきセキュリティ対策を提案できる力をIIJは持っているので、セキュリティ面の不安はありませんでした。
江上:
Microsoftとの関係性で言えば、もう1つ、大きな選定ポイントがありました。今後の拡張性への対応です。Microsoftは、Microsoft 365の各アプリでさまざまなAI機能を活用できる「Copilot」を将来提供すると公表していました。当社は同サービスを有望視していたため、そうしたニーズにも迅速に対応できるIIJが協業相手としてふさわしいと判断しました。
――生成AIの活用について、将来を見据えたロードマップも策定されたそうですね。
武重:
生成AIを銀行業務にどのように活用していくのか、当社における全体戦略をまとめました。実は、このロードマップ策定のキッカケになったのが、「まず社内で使ってみることが大切」というIIJの提案でした。利用開始後、どのタイミングで何をすべきかまで提示してくれたので、とても参考になりました。IIJの提案をもとにしたロードマップは、大きく2つのフェーズから構成されています。まずフェーズ1では、社内で生成AIを活用し、浸透を図ります。そしてフェーズ2で、社内の情報活用を促進し、将来的に利用範囲を社外にも広げていきたいと考えています。さらにその先には、お客さま向けサービスの完全自動化を見据えています。ATMのような銀行サービスをアプリで利用できるだけでなく、各種手続きも行なえるようにし、わからないことがあればAIがアシストしてくれる――そんな世界観を目指しています。
[導入後の効果]生成AIの利用環境を全社展開。多くの活用事例から効果を実感
――Azure OpenAI Serviceの導入から活用までの流れを教えてください。
武重:
2023年4月にIIJから提案を受け、5月に正式契約してAzure OpenAI Serviceをベースにした生成AI活用基盤の構築を開始し、6月には構築が完了しました。実質1カ月ほどで生成AIが使える環境が整ったわけです。その後、7月から一部の従業員によるトライアルを進め、業務に役立つ見通しがたったので、活用ロードマップを策定し、9月に経営層に上申しました。
江上:
トライアルの実施には、生成AIの基礎的な知識や使い方やルールなどをまとめた利用者向けガイドの作成が必要でした。この時もIIJから知見やノウハウを提供してもらい、非常に参考になりました。こうして全社的に利用できる環境を整えて、12月から生成AIの社内利用がスタートしました。
各サービスの利用イメージ

――IIJのサポートをどのように評価していますか?
武重:
IIJは生成AIのエンジンとなるLLM(大規模言語モデル)の考え方やモジュール機能などについても詳しく説明してくれ、生成AIの得手不得手を知ることができました。こうした情報は生成AIを使いこなすうえで非常に有用で、IIJの豊富な知見と高い技術力を改めて実感しました。
江上:
Azure OpenAI Serviceはリリース以降、何度かバージョンアップしていますが、IIJは常に最新情報を提供してくれます。わからないことがあっても丁寧に対応してくれるので、安心感があります。
――現在の生成AIの利用状況を教えてください。
江上:
本部・営業店などの約6000人が利用できる環境を整え、徐々に利用が広がっています。おもな用途は、各種文書の下書き、企画のアイデア出し・壁打ち、マーケット情報の整理などです。実際に利用した従業員から多くの活用事例が寄せられており、効果を実感しています。トライアル時のアンケートでは「1人当たり約30分/1日の業務時間の短縮効果がある」という結果が出ていたので、今後もしっかりと利用を促進していきたいです。
武重:
これとは別に、生成AIの業務利用を拡張する環境整備にも取り組んでいます。銀行業務は多岐にわたり、ルールや手続きが複雑で、必要な情報を探すだけでも一苦労です。そこで、行内データと生成AIを組み合わせた情報検索の検証プロジェクトをIIJとともに進めています。完成すれば、チャットで問い合わせるだけで、必要な文書、手続き、作業の進め方が即座にわかるようになる予定です。
――今後どのような業務で生成AIを活用していきますか?
武重:
先に述べたように、将来的には生成AIを活用して、お客さま向けサービスの完全自動化を目指しています。もちろん、全てを置き換えるわけではなく、ローンや融資のご相談のように対面対応が欠かせない業務もあります。自動化できるところは自動化することで、対面コミュニケーションに充てる時間が増え、よりきめ細かな対応が可能になります。デジタルと人の融合を通して、価値の高いサービスを提供していく――これが私たちの目指す「金融DX」の姿です。今後もAIのビジネス活用をIIJと推進し、地域とともに発展する金融グループとしての存在感を高めていきたいと考えています。
所在地:福岡県福岡市中央区大手門1丁目8番3号
設立:2007年4月2日
資本金:1,247億円
九州全域をカバーする地域金融グループ。福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行が、地域銀行の強みを活かした金融サービスを提供。みんなの銀行は2021年から事業を開始した、国内初のデジタルバンク。グループ5行のシナジーを活かし、新たな価値創出を推進している。

- 導入したサービス・ソリューション
- Azure OpenAI Service
- IIJ GIO with Microsoft Azure
本記事は2024年1月に取材した内容をもとに構成しています。記事内のデータや組織名・役職などは取材時のものです。